側頭筋をほぐすと、なぜ顔が変わって見える?フェイスラインを解剖学から考える

BEAUTY

美容の施術では、こめかみ周辺の「側頭筋」をほぐすことがあります。

実際に施術前後を比べてみると、

「フェイスラインがすっきりした」
「頬の位置が少し上がったように見える」

と感じることがあります。

では、なぜ側頭筋をほぐすと顔が変わって見えるのでしょうか?

よく聞くのが、

「筋膜は顔までつながっているから、側頭筋をほぐすと顔が引き上がる」

という説明です。

私自身も美容と身体について学ぶなかで、この説明が気になりました。

そこで今回は、「本当にそんな単純な仕組みなのだろうか?」というところから、顔の構造を考えてみたいと思います。

そもそも側頭筋ってどこ?

まず、自分のこめかみに指を当ててみてください。

その状態で奥歯を軽く噛んでみると、指の下が硬くなると思います。

これが側頭筋です。

側頭筋は頭の側面に大きく広がる扇形の筋肉で、下の方では下顎骨につながっています。

主な役割は顎を動かすこと。

口を閉じたり、下顎を後方へ動かしたりするときに働く「咀嚼筋」の一つです。

ここで最初の重要なポイントがあります。

側頭筋は、頬やフェイスラインの皮膚を直接持ち上げている筋肉ではありません。

「側頭筋が硬いから顔が下がる」は本当?

美容の世界では、

「側頭筋が硬くなると顔が下へ引っ張られる」

という説明を聞くことがあります。

ところが解剖学的に見ると、少し疑問が残ります。

側頭筋は頭蓋骨の側面から下顎骨へつながっています。

頬の皮膚やフェイスラインに直接付着して、それを下へ引っ張っているわけではありません。

そのため、

側頭筋が硬くなる
↓
顔の皮膚を下へ引っ張る
↓
たるむ

と単純に説明するのは難しそうです。

では、「筋膜がつながっている」という説明はどうでしょうか。

「筋膜がつながっている」は間違いではない

顔の皮膚の下には、筋肉や脂肪、筋膜などさまざまな組織があります。

美容医療などでよく耳にする**SMAS(スマス)**も、その一つです。

顔のSMASなどの表在性組織を側頭部へ追っていくと、側頭部の表在性の筋膜へと連続していきます。

つまり、

「顔と側頭部の組織には解剖学的なつながりがある」

ということ自体は間違いではありません。

ただし、ここが重要です。

側頭筋と顔の表面が、一枚の布のように直接つながっているわけではありません。

側頭筋から皮膚までの間には、深い筋膜や脂肪、比較的動きやすい組織の層など、いくつもの構造があります。

そのため、

「筋膜がつながっている」=「側頭筋をほぐせば顔が上へ引っ張られる」

とは言い切れません。

「つながっていること」と「力がそのまま伝わること」は、別の話だからです。

では、なぜ顔が変わって見えるのか?

ここからが面白いところです。

側頭筋をほぐしたあとに顔の印象が変化したとしても、必ずしも一つの原因だけで説明する必要はありません。

いくつかの変化が重なっている可能性があります。

例えば、側頭筋は咬筋などと一緒に顎を動かしています。

そのため、側頭筋を含む咀嚼筋周辺への刺激によって、筋肉の緊張や顎の動きなどが変化する可能性があります。

また、顔へのマッサージによって皮膚血流が一時的に増加することを示した研究もあります。

さらに、顔の皮膚・脂肪・筋膜などの軟部組織は、すべてが骨に完全固定されているわけではありません。

小規模な研究ではありますが、顔面マッサージを一定期間行ったあと、CT上で頬の軟部組織の位置に変化が確認された研究もあります。

つまり、

筋肉の状態
+顎の位置や動き
+血流
+軟部組織
+組織液
+表情や姿勢

などが組み合わさることで、

「フェイスラインがすっきりした」

と見える可能性は考えられます。

ただし、現時点では「側頭筋をほぐしたからSMASが引き上がった」とまで断定できる十分な証拠はありません。

「顔が変わった」=「たるみが治った」ではない

もう一つ知っておきたいのが、そもそも顔の加齢変化はかなり複雑だということです。

年齢とともに変化するのは皮膚だけではありません。

皮膚の下にある脂肪は複数の区画に分かれていて、それぞれ異なる変化をします。

さらに顔の組織を支える構造や筋肉、そして土台となる顔の骨格も加齢によって変化していきます。

つまり顔の見た目は、

皮膚
+脂肪
+筋肉・筋膜
+支持組織
+骨格

などの組み合わせでつくられています。

ですから、一度の施術後にフェイスラインがすっきり見えたとしても、

「顔の老化そのものが元に戻った」

という意味ではありません。

ここは美容を考えるうえで、きちんと分けておきたいところです。

それなら、側頭筋をほぐす意味はない?

私はそうは考えていません。

実際に施術をして、顔の印象が変化して見えるのであれば、その現象自体を否定する必要はないと思います。

大切なのは、

「変化したこと」と「なぜ変化したのか」を分けて考えること。

例えば施術前と施術直後だけでなく、30分後や翌日にも同じ条件で写真を撮ってみる。

それだけでも、

「直後だけ変化するのか」
「ある程度持続するのか」

が分かってきます。

私自身も施術を行う立場として、こうした変化をできるだけ同じ条件で観察していきたいと思っています。

分からないことを、分かったことにしない

今回、側頭筋とフェイスラインの関係を調べてみて、一番興味深かったのはここでした。

身体の組織は確かにつながっています。

でも、

「つながっているから、ここをほぐせばあそこが上がる」

というほど人体は単純ではありません。

一方で、マッサージや施術によって筋肉・血流・軟部組織などに変化が起こる可能性もあります。

だから私は、

「側頭筋をほぐせば顔がリフトアップする」

と単純に説明するより、

「施術後に顔が変わって見えることがある。その理由には複数の要素が関係している可能性があり、まだ分かっていないことも多い」

と考える方が、今のところ身体の構造には合っていると思います。

美容についても、結果だけを見るのではなく、

「身体の中で何が起きているのだろう?」

という視点を持って、これからも考えていきたいと思います。


参考文献について

今回は、側頭部・SMASの解剖学、顔面軟部組織、フェイシャルマッサージによる血流変化や組織変化などの研究をもとに構成しています。

特にマッサージによる顔貌変化については、小規模研究も多く、まだ確立されたメカニズムとは言えません。そのため、研究で分かっていることと、考えられる仮説を分けて記載しています。

Miyaji A, Sugimori K, Hayashi N. Short- and long-term effects of using a facial massage roller on facial skin blood flow and vascular reactivity. Complement Ther Med. 2018;41:271-276.
5分間のフェイシャルローラー使用後、施術した頬の皮膚血流が少なくとも10分間増加した研究です。
PubMedで確認する

Okuda I, et al. Anatomic and diagnostic considerations of facial mobility for understanding the effectiveness of facial massage: A pilot study. Skin Res Technol. 2021;27(6):1057-1063.
献体および6名の成人のCT画像を用いて、顔面軟部組織の「動きやすさ」を検討した研究です。
PubMedで確認する

Okuda I, et al. Objective analysis of the effectiveness of facial massage using breakthrough computed tomographic technology: A preliminary pilot study. Skin Res Technol. 2022;28(3):472-479.
健康な成人5名が2週間セルフマッサージを行い、CTで頬やSMASの変化を評価した予備的研究です。興味深い結果ですが、5名という非常に小規模な研究である点には注意が必要です。
PubMedで確認する

Abul-Hassan HS, von Drasek Ascher G, Acland RD. Surgical anatomy and blood supply of the fascial layers of the temporal region. Plast Reconstr Surg. 1986;77(1):17-28.
側頭部の表層筋膜が顔面のSMASと連続すること、さらに深部の側頭筋膜との間に疎性結合組織の層が存在することを示した古典的な解剖研究です。
PubMedで確認する

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