「足りないなら補う」の前に。テストステロンの研究を読んで考えたこと

LONGEVITY

健康について調べていると、「年齢とともに減る成分を補いましょう」という話によく出会います。

足りないなら、補う。

わかりやすい考え方ですし、実際に補うことが必要な場合もあります。

ただ最近、テストステロンについての医師のメールマガジンを読み、紹介されていた研究を調べるなかで、少し立ち止まって考えたくなりました。

その数値は、なぜ低くなったのだろう。

自分が面白いと感じたのは、数値を上げる方法そのものよりも、その背景に生活や身体全体の状態が関わっているという点です。

ホルモンの数字から、生活の話が見えてきた

テストステロンは、筋肉や性機能などに関わるホルモンです。

男性ホルモン、男性更年期といった言葉とともに、耳にしたことがある人も多いかもしれません。

今回読んで興味を持ったのは、男性のデータをまとめた解析で、BMIが高いこと、高血圧、糖尿病などが、低いテストステロン値と関連していたことでした。[1]

もちろん、血圧や体格から、その人のテストステロン値がわかるわけではありません。どちらが原因なのかも、この関連だけでは決められません。

それでも、ホルモンという一つの数値の話を読んでいたはずが、体脂肪や血圧、代謝の状態の話につながっていく。

ここが、自分には面白く感じられました。

一つの成分だけを取り出して考えるより、その人の身体が今どんな状態にあるのかを見る。その大切さを、別の角度から教えられた気がします。

数値が戻ることと、体調が戻ること

もう一つ印象に残った研究があります。

テストステロンが低く症状のある65歳以上の男性790人を対象に、テストステロンのゲルと偽薬を1年間比較した試験です。

補充した群ではテストステロン値が上がり、性機能などに改善が見られました。一方、疲労・活力に関する主要評価では、明確な改善は確認されませんでした。[2]

「効いた」「効かなかった」の一言では、収まりにくい結果だと思います。

改善したことがある。同時に、数値が上がっても、期待した変化のすべてが起きたわけではない。

自分がここから考えたのは、数字を変えることと、その人が元気に過ごせることは、同じ目標とは限らないということです。

これは補充療法の必要性を自分が判断する話ではありません。その判断は医療の領域です。

研究を読む側として、「何の数値が変わったのか」に加えて、「実際に何がよくなったのか」も見たいと思いました。

「もっと頑張る」が、身体に合っているとは限らない

この話は、運動指導にもつながるように感じます。

健康のために運動する。食事に気を配る。体重を落とそうとする。

どれも目的があって取り組むことですが、その人の睡眠や疲労、食事量まで含めると、必要なことは変わってくると思います。

あまり動いていない人と、毎日追い込んで疲れが抜けない人。

食べる量が多すぎる人と、食事を削りながら運動を増やしている人。

どちらにも同じ「もっと運動しましょう」「食事を減らしましょう」が合うわけではありません。

自分なりの仮説ですが、何かが足りないように見えるとき、身体が十分に回復できない条件が続いている場合もあるのではないでしょうか。

その場合は、頑張る内容を増やすことより、今の取り組みと回復の釣り合いを見ることに意味があるのかもしれません。

自分の生活に置き換えると、何を見るか

「原因に目を向ける」といっても、難しい分析ばかりを考える必要はないと思います。

たとえば、最近の生活を振り返る。

  • 腹囲や体重が増えていたら、飲み物や間食の習慣は変わっていないか。
  • 健診で血圧や血糖を指摘されていたら、その結果を置いたままにしていないか。
  • 疲れが続いていたら、寝る時間を後回しにしていないか。
  • 運動を増やしていたら、食事や休む時間も確保できているか。

ここから選ぶ行動も、一つでよいのかもしれません。

毎日の甘い飲み物を無糖に替えてみる。

夜の調べ物を30分早く切り上げ、眠るための時間をつくる。

予定を詰めず、回復に使う時間を先に確保する。

健診結果に書かれた受診や相談を、そのままにしない。

どれも「これでテストステロンが上がる」という方法として挙げているわけではありません。自分の身体を考えるとき、生活の中に具体的に見直せることがある、という話です。

以前の睡眠の規則性の記事でも、睡眠時間という一つの数字に加えて、毎日のリズムを見ることを考えました。

今回も、一つの数字から少し視野を広げることで、身体の見え方が変わるように感じています。

身体は、成分だけを足し引きするものではない

自分たちは健康を考えるとき、「何を摂ればいいか」「何を増やせばいいか」に目が向きやすいのかもしれません。

今回、テストステロンの研究を読んで興味を持ったのは、その手前にある「なぜ、今の状態になったのか」という問いでした。

必要な補充や治療があることは前提です。生活を整えれば、あらゆる問題が解決するとも思いません。

そのうえで、日々の健康づくりでは、身体が十分に働ける土台を大切にしたい。

食べること。動くこと。眠ること。休むこと。

何かが足りないと感じたときほど、一つの成分だけでなく、それらの釣り合いにも目を向けてみる。

足りないものを探すだけでなく、その背景にある原因を考える。そして、生活を整えることで、身体を整えていく。

運動を伝える立場としても、やはりこの土台を一番大切にしたいと思います。

参考文献

  1. Yeap BB, et al. Factors associated with circulating sex hormones in men: Individual Participant Data meta-analyses. Ann Intern Med. 2023;176:1221–1234. 男性の体格・生活・健康状態と性ホルモン値の関連をまとめた解析。個人の診断や因果関係を示すものではありません。
  2. Snyder PJ, et al. Effects of Testosterone Treatment in Older Men. N Engl J Med. 2016;374:611–624. 低値と症状のある高齢男性を対象にした補充試験。対象者・評価項目によって結果は異なり、すべての人への効果を示したものではありません。

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