毎日出ていれば、便秘ではない。そう思っていませんか?
実は「出る頻度」は、便秘という状態の一面にすぎません。そして、健康に良いものを取り入れているのに、だるさや肌の調子がなかなか変わらないという人は、「入れるもの」の前に「出ていくもの」を見てみる必要があるかもしれません。
便秘の問題は、出ない日数だけではありません。便が腸に長く留まると、腸の中では別のことが起きています。
便秘とは、どういう状態か?
まず、便秘の定義を確認しておきます。
便秘は、週に3回未満の排便、硬い便、強くいきむ、出し切れない感じなどが続く状態として定義されます。Mayo Clinic。毎日出ていても硬い便で苦しい人は便秘ですし、2〜3日に1回でもスッキリ出ていれば、本人が困っていなければ問題ないとされています。
日本の調査でも、どの基準を使うかで「便秘の人の割合」は大きく変わります。ある基準では約9%、別の基準では約28%という報告があります(Rome III基準の調査、国内5,155名の調査)。
このように「回数」は人によって事情が違います。だからこそ、この記事では回数ではなく、便が腸に留まっている時間で便秘を考えます。
便が腸に長く留まると、何が起きるか?
大腸は、もともと水分を吸収する臓器です。便が大腸に長く留まるほど、そこから吸い返す水分が増え、便は硬く乾いたものになります。硬くなった便はさらに出しにくくなり、留まる時間がますます延びるという悪循環に入ります。便秘の総説。
そして、滞留は腸内細菌の働きも変えます。
腸の環境を再現した実験で、便が通る時間を48時間から96時間に延ばすと、遠位結腸側で腸内細菌の種類が減り、分解の内容が変わり、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)が増えることが示されました。これは高齢者の腸内で見られる変化に近いもので、食べ物の分解が「発酵」から「腐敗」寄りに傾く方向です。腸内環境を再現した実験。
※この実験は腸の環境を再現した試験管内のもので(各条件6サンプル)、そのままヒトに当てはめることはできません。また、ガス産生と便秘・通過時間の関係は、ヒトの研究では単純ではないという報告もあります。呼気水素と便秘の研究。「留まる時間が長いと腐敗側に傾く」という方向性だけ受け取っていただければと思います。
腸は「出口」であり、「関所」でもある
便秘の本当に見落とされやすい部分は、ここだと思います。
私たちの体は、不要になった物質を肝臓で処理してから、胆汁にのせて腸へ送り出し、便として外に出します。つまり腸は「捨て口」です。
ところが、腸にはもう一つの顔があります。腸から体内に戻る「吸収口」でもあるのです。
肝臓は、捨てる用の物質に「荷札」を付けて送り出します(抱合)。ところが腸内細菌の中には、この荷札を外せるものがいます(脱抱合)。荷札を外された物質は、ふたたび吸収されて体内に戻れます。この仕組みは、女性ホルモン(エストロゲン)でよく研究されています。エストロゲンと腸内細菌のレビュー。
胆汁酸やコレステロールも、腸と肝臓のあいだを行き来しながら、一部だけが便で外に出ていく循環の中にあります(腸肝循環のレビュー、胆汁酸の輸送)。つまり、この循環の前提になっているのは「便として外に出ること」です。
そして、食事の内容がこの循環に影響することも知られています。食物繊維の多い食事は、女性ホルモンが体に戻る量を減らす方向に働きました。食事とエストロゲン代謝の研究。
ここまでは理屈として筋が通る話ですが、正直に言うと、「便秘になると体に戻る量が増える」ことを直接確かめた研究は限られます。だから、ここで言いたいのは因果の断定ではなく、出口が滞っている状態は、捨てたはずのものが回収に戻る可能性を増やす状態であるということです。出口を整えることが、健康の土台として先にあるはずだという考え方です。
改善は「入れる」より先に「出す」
健康に良いものを足す前に、まず出口を整える。便秘への対策は、この順番で考えるのが確実です。
- 水分:こまめにとる。大腸が水分を吸い返す前に、十分な水分を便に残しておくこと。
- 食物繊維:水に溶けるタイプ(海藻・納豆など)と溶けないタイプ(野菜・きのこ・穀物)の両方を。どちらか片方だけでは足りません。それぞれの違いは、食物繊維の記事で詳しく書いています。
- 乳酸菌・ビフィズス菌:腸内環境のサポートとして。高齢の便秘の方への研究でも、発酵性の糖類を摂った期間に排便が改善したという報告があります。高齢の便秘者への研究。
- 酸化マグネシウム:腸の中で浸透圧を使って水分を引き込み、便を軟らかくする便秘薬の成分です。添付文書情報。薬ですから、自己判断で長く続けず、体質や飲んでいる薬を含めて医師や薬剤師に相談する前提で。
- 体を動かす:運動習慣がある人は便秘のリスクが低いというレビューがあり、無運動の人が運動習慣を始めると大腸の通過時間が短くなったという研究もあります(システマティックレビュー、運動と通過時間の研究)。激しい運動である必要はなく、歩くレベルで十分です。
ここで、私自身の話をさせてください。
私は、LDLコレステロールが、一般的な健康診断の基準よりも狭い基準で見るとやや高めです。また、水分補給や野菜摂取を少し怠ると、排便が悪くなることがあります。
5年くらい前は、2〜3日に1回程度の排便でした。ファスティングを始めてから改善されてきたのですが、その後に気づいたことがあります。長年、朝食をほぼ食べず、エネルギー摂取が全体的に少なかったことです。代謝が下がっていたのだろうと感じたのは、甲状腺ホルモンFT3が低めだったからです。
甲状腺ホルモンは腸の蠕動運動(腸の動き)にも関わります。甲状腺機能が低下すると、消化管の運動が減り、便秘が典型的な症状になることは研究でも示されています。甲状腺と消化管運動のレビュー。
つまり、私の場合、腸内環境の問題というよりも、腸そのものの動きが低下していたのだろうと理解しています。腸内環境を整えること以外にも、「体全体のエネルギー量と代謝」が腸の動きを支えているという視点は、今も意識しています。
こんなときは受診を
便秘は多くの場合、生活習慣と関係するものですが、次のような場合は、消化器内科の受診を検討してください。
- 便に血が混じる
- 排便のパターンが急に変わった
- 理由なく体重が減った
- 強い腹痛がある
こうした症状は、便秘とは別の病気が隠れている可能性を調べるための目安です。Mayo Clinic。
まとめ
- 便秘の本当の問題は、出ない日数ではなく、便が腸に留まる時間。
- 滞留は、便を硬くするだけでなく、腸の中の分解の方向を変え、本来外に出るはずだった物質が回収に戻る可能性を増やす。
- 腸は「出口」であり「関所」でもある。出口が整っていなければ、良いものを入れても効果が出にくい。
- 「何を足すか」の前に、「ちゃんと出ているか」を見直そう。
健康に良いものを取り入れても、調子がなかなか変わらない人は、まず1〜2週間、排便の頻度だけでなく便の状態を見てみてください。そこから変えるのが、一番近道かもしれません。
腸の働きを考えるうえでは、食物繊維の摂り方も重要です。
ただし、食物繊維は種類によって性質が異なり、すべての人に同じように働くわけではありません。
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