「食物繊維を摂りましょう」
健康や腸内環境について調べていると、よく目にする言葉です。
野菜を増やす。玄米や雑穀米を食べる。果物や豆類、海藻、きのこを取り入れる。
どれも食物繊維を摂る方法ですが、ここで一つ疑問があります。
これらの食物繊維は、身体の中ですべて同じように働くのでしょうか?
実は、食物繊維は単純に「何g摂ったか」だけでは説明できません。
食物繊維にはさまざまな種類があり、発酵性や粘性などの性質も異なります。さらに、腸内環境には個人差があるため、同じ食品を摂っても反応が異なることがあります。
今回は「食物繊維をたくさん摂ろう」という話ではありません。
食物繊維を“何から摂るか”という視点から、食品ごとの違いや腸内細菌との関係を、研究をもとに考えていきます。
そもそも「食物繊維」とは何なのか?
食物繊維という名前から、一つの栄養素のように感じるかもしれません。
しかし実際には、一種類の物質を指しているわけではありません。
セルロース、ヘミセルロース、ペクチン、β-グルカン、イヌリン、レジスタントスターチなど、さまざまな成分があります。
一般的には「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」という分類がよく知られています。
この分類も役立ちますが、身体への作用を考えるには、それだけでは十分ではありません。
例えば、
水に溶けるか
水をどのくらい保持するか
粘りやゲルを作るか
腸内細菌によってどの程度発酵されるか
といった性質によって、消化管内での働きは変わってきます。
つまり、
同じ「食物繊維5g」でも、身体の中で同じ働きをするとは限らない。
ということです。
食物繊維は野菜・果物・穀物・豆でどう違う?
ここで普段の食事に戻って考えてみます。
食物繊維は、野菜だけに含まれているわけではありません。
野菜にはセルロース、ヘミセルロース、ペクチンなど、果物にはペクチンなどが含まれています。
大麦やオーツ麦にはβ-グルカン、穀物にはアラビノキシランなど、食品によって含まれる食物繊維にも特徴があります。
豆類、きのこ、海藻にも、それぞれさまざまな多糖類が含まれています。
そして重要なのは、実際の食品は「りんご=ペクチン」のように、一種類の食物繊維だけでできているわけではないということです。
一つの食品の中にも複数の成分が存在しています。
食物繊維を単離して考えるだけでなく、植物性食品そのものの構造や複雑さを考えることも、腸内細菌との関係を理解するうえで重要だと指摘されています。
だから私は、
「食物繊維を摂る=野菜をたくさん食べる」
だけで考えなくてもいいと思っています。
野菜、果物、豆類、穀物、海藻、きのこ。
食品源を変えることは、結果として性質の異なる食物繊維を食事に取り入れることにもつながります。
食物繊維には「物理的な働き」と「腸内細菌との関係」がある
食物繊維の違いを理解するうえで、私は大きく二つの視点で考えると分かりやすいと思っています。
一つは、
腸の中でどんな物性を持つのか。
もう一つは、
腸内細菌にどのように利用されるのか。
例えば、β-グルカンやサイリウムなど粘性のある食物繊維では、水分を含んで粘りやゲル状の性質を示すことがあります。
こうした粘性は、消化管内での栄養素の移動や吸収などにも関係します。
一方、イヌリンなどの発酵されやすい食物繊維は、大腸の腸内細菌によって利用されます。
つまり、
食物繊維=腸内細菌のエサ
だけでもありませんし、
食物繊維=便のかさを増やすもの
だけでもありません。
食物繊維によって性質が違い、それによって身体への作用も変わってくるのです。
腸内細菌は、食物繊維から何を作っているのか?
人間の消化酵素で十分に分解されなかった成分の一部は、大腸まで届きます。
そこで登場するのが腸内細菌です。
発酵可能な食物繊維を腸内細菌が利用すると、その代謝産物として短鎖脂肪酸などが作られます。
代表的なのが、
酢酸・プロピオン酸・酪酸
です。
短鎖脂肪酸は大腸の環境だけでなく、腸管や代謝との関係についても研究されています。
ここが面白いところです。
人間が消化できなかった食物繊維を腸内細菌が利用し、人間側が利用できる代謝物へ変換している。
私たちは「自分だけ」で食事を処理しているわけではない、と考えることもできます。
ただし、
「短鎖脂肪酸が多ければ多いほど健康」
という単純な話ではありません。
食物繊維の構造や発酵性、食品そのものの構造などによって、腸内細菌との相互作用も変わってきます。
私自身、雑穀米ではお腹が張る
このテーマに興味を持った理由の一つに、私自身の経験があります。
私は食事に雑穀米を取り入れると、白米を食べているときよりもお腹が張ることがあります。
一般的に考えれば、雑穀などを加えることで食物繊維を増やせることは、一見すると良いことに思えます。
それでも、自分の身体では必ずしも快適とは限りません。
その理由が食物繊維なのか、含まれる発酵性の成分なのか、摂取量なのか、あるいは私自身の腸内環境との組み合わせなのかは分かりません。
発酵性の炭水化物によって膨満感が生じるかどうかにも個人差があることが、ヒトを対象とした研究で確認されています。2026年のランダム化クロスオーバー試験でも、同じ発酵性炭水化物への反応には個人差があり、腸内細菌の機能との関連も調べられています。
ただし、これだけで、
「私の腸内細菌には雑穀米が合わない」
と結論づけることはできません。
ここは大切なところです。
同じ食物繊維でも「合う・合わない」はあるのか?
腸内細菌叢は人によって異なります。
そして最近では、もともとの腸内細菌叢によって食物繊維への反応が異なる可能性も研究されています。
例えば2025年の健康成人48人を対象とした小規模なランダム化試験では、介入前の腸内細菌叢の違いによって、イヌリンやレジスタントスターチを多く含む食品への腸内細菌の反応に違いがみられました。
さらに、前糖尿病の人を対象とした、より大規模な研究でも、腸内細菌叢と食物繊維介入への個人差との関係が研究されています。
これは非常に興味深い研究領域です。
ただし、ここから、
「あなたにはこの食物繊維が合っています」
と簡単に判断できる段階ではありません。
腸内細菌だけでなく、食物繊維の種類、食品全体の構造、普段の食生活、摂取量、消化管の状態など、多くの要因が関係します。
現時点では、
「この菌がいるから、この食品を食べるべき」
とまで単純化しない方がよいでしょう。
だから私は、「合う・合わない」を腸内細菌だけで決めるのではなく、実際に食べたときの自分の身体の反応を見ることも大切だと考えています。
「身体に良い=たくさん食べる」ではない
健康に良いと聞くと、
「それならたくさん摂ろう」
となりがちです。
しかし、食物繊維を増やしたときに、腹部膨満感などの消化器症状が増えることもあります。実際、高食物繊維食で膨満感が増えたヒト介入研究もあります。
だから、
「食物繊維は多ければ多いほど良い」
と考えるより、
「自分はどんな食品から、どのくらい摂っていて、身体はどう反応しているか」
を見る方が実践的だと思います。
食物繊維を摂るには何を食べればいい?食品選びのポイント
ここまで読むと、
「結局、どの食物繊維を選べばいいの?」
と思うかもしれません。
一般的な食生活であれば、最初から特定の食物繊維だけを狙う必要はないでしょう。
まずは、
野菜だけではなく、果物、豆類、穀物、海藻、きのこなど、異なる食品源から食物繊維を摂る。
そして、「健康に良いと言われているから」という理由だけで無理に一つの食品を食べ続けるのではなく、便通、腹部膨満感、ガスなど自分の身体の反応も観察する。
必要に応じて量や食品の組み合わせを変えてみる。
食品として摂る場合には、食物繊維だけを単独で摂取しているわけでもありません。
食品の構造や、そこに含まれる他の成分も含めて身体に入ってきます。この「食品全体」を考える視点も、食物繊維研究では重要とされています。
だからこそ、最初から「どの食物繊維サプリがいいか」と考えるより、まず普段の食事全体を見ることが大切なのではないでしょうか。
食事については「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」という視点もあります。食事時間と体内時計については、こちらの記事で詳しくまとめています。
まとめ|食物繊維は「何g」だけで考えない
食物繊維について調べてみると、「1日○g」という数字だけでは見えてこない世界があります。
食物繊維にはさまざまな種類があり、粘性、保水性、発酵性などの性質も異なります。
さらに、それを受け取る私たちの身体や腸内環境も全員同じではありません。
だから食物繊維については、
何g摂ったかだけではなく、何から摂ったかを見る。
そして、自分の身体がどう反応しているかも見る。
このくらいの考え方がちょうどいいのではないかと思っています。
食物繊維を「身体に良い成分」と一括りにするのではなく、食品と身体との関係を見る。
私自身も、これからいろいろな食品を試しながら、自分の身体の反応を観察していきたいと思います。
食物繊維を考えるうえでは、摂取量だけでなく、腸の中で食べ物がどのように移動するのかを理解することも大切です。
便秘と腸内通過時間の関係については、関連記事「便秘と腸内通過時間」で詳しく解説しています。
参考文献
McRorie JW Jr, McKeown NM. Understanding the Physics of Functional Fibers in the Gastrointestinal Tract: An Evidence-Based Approach to Resolving Enduring Misconceptions about Insoluble and Soluble Fiber.J Acad Nutr Diet. 2017;117(2):251-264.
→ 食物繊維の粘性・ゲル形成・発酵性など、「水溶性/不溶性」だけでは説明できないという部分の根拠。
Deehan EC, Walter J. The Fiber Gap and the Disappearing Gut Microbiome: Implications for Human Nutrition.Trends Endocrinol Metab. 2016;27(5):239-242.
→ 食物繊維と腸内細菌、食品由来の複雑な炭水化物を考える背景資料。
Makki K, Deehan EC, Walter J, Bäckhed F. The Impact of Dietary Fiber on Gut Microbiota in Host Health and Disease.Cell Host Microbe. 2018;23(6):705-715.
→ 食物繊維の発酵、腸内細菌、短鎖脂肪酸との関係を整理するレビュー。
Swanson KS, et al. Effect of fructans and resistant starch on the human gut microbiome and metabolic response. 2025.
→ 食物繊維への反応と腸内細菌叢の個人差を考える部分の参考。※今回の記事では「腸内細菌によって自分に合う食物繊維が決められる」とまでは解釈しない。
Zhang X, et al. Effects of high-fiber diets and macronutrient substitution on bloating: findings from the OmniHeart randomized trial.Clin Transl Gastroenterol. 2020.
→ 食物繊維を増やした際に腹部膨満感が増える場合がある、という部分の参考。


コメント