健康や栄養について考えるとき、私たちは「何を食べるか」に注目しがちです。
タンパク質をどのくらい摂るか。
野菜を食べているか。
糖質や脂質を摂りすぎていないか。
もちろん、どれも大切です。
しかし、もう一つ考えてみたいことがあります。
「いつ食べるか」です。
同じものを、同じ量だけ食べたとしても、朝に食べるのと夜遅くに食べるのでは、身体の反応がまったく同じとは限りません。
以前の記事では、睡眠は「何時間寝たか」だけでなく、いつ寝て、いつ起きるかという規則性も健康と関係していることを紹介しました。
さらに、日中に浴びる光についても、体内時計との関係から考えてきました。
では、起きている時間の中で、
「いつ食べたのか」
は身体にとってどんな意味を持つのでしょうか。
今回は「時間栄養」という視点から考えてみます。
身体の代謝は24時間ずっと同じではない
まず知っておきたいのは、私たちの身体が24時間ずっと同じ状態ではないということです。
例えば血糖です。
健康な成人を対象に、同じような食事を朝と夜に摂ってもらった研究では、夜に食べた方が食後血糖やインスリン反応が大きくなりました。
また別のランダム化クロスオーバー試験では、昼食を13時に食べた場合と16時30分に食べた場合を比較しています。
食事内容を揃えていても、遅い時間に食べた場合には食後の血糖応答が大きくなりました。
つまり、
「同じ500kcalなら、いつ食べても身体にとって同じ」
とは限らないのです。
なぜ、このような違いが起こるのでしょうか。
その背景にあるのが体内時計です。
身体には「脳の時計」だけでなく「全身の時計」がある
私たちの身体には、およそ24時間周期で変化する**概日リズム(サーカディアンリズム)**があります。
その中心的な役割を担っているのが、脳の視交叉上核(SCN)と呼ばれる場所です。
いわば身体の「親時計」です。
しかし、時計を持っているのは脳だけではありません。
肝臓、筋肉、脂肪組織、膵臓など、代謝に関係する組織にも時計の仕組みがあります。
ここが今回の話の重要なポイントです。
脳の時計は特に光の影響を強く受けます。
一方で、身体の各組織にある時計は、食事をする時間とも関係しています。
つまり身体は、
「何を食べたか」だけではなく、「いつ食べたか」も感じ取っている
と考えることができます。
食事は「栄養」であると同時に「時刻情報」でもある
食事をすると、身体の中ではさまざまな変化が起こります。
血糖値が変化し、インスリンなどのホルモンが動き、肝臓・筋肉・脂肪組織などの代謝も変化します。
つまり食事とは、単にカロリーや栄養素を身体へ入れる行為ではありません。
身体にとって一つの「時間の手がかり」にもなっている可能性があります。
これを示す興味深い研究があります。
健康な若い男性10人を対象に、朝・昼・夕の食事を通常より5時間遅らせる実験が行われました。
すると、メラトニンやコルチゾールといった中央時計に関連する指標は大きく変わりませんでした。
ところが、血糖の24時間リズムは約5.7時間遅れ、脂肪組織の時計遺伝子PER2のリズムも約1時間遅れました。
対象者10人という小規模な研究なので、この結果だけで健康への長期的な影響まで断定することはできません。
それでも、
食事時間を変えると、身体の末梢のリズムも変化し得る
ことを人で示した興味深い研究です。
食事は身体に、
「エネルギーが入ってきた」
と伝えているだけではなく、
「今は食べる時間ですよ」
という情報も与えているのかもしれません。
「16時間断食」を時間だけで考えない
ここまで理解すると、いわゆる「16時間断食」の見方も少し変わってきます。
16時間断食では、一般的に1日の食事を8時間程度の時間帯にまとめます。
例えば、
8時〜16時に食べる
場合も、
12時〜20時に食べる
場合も、
どちらも「16時間食べない」という意味では同じです。
しかし、体内時計という視点から見ると、この2つをまったく同じものとして扱ってよいのかは分かりません。
実際、前糖尿病の男性を対象とした小規模な試験では、食事を1日6時間以内にまとめ、夕食を15時までに終える「早い時間帯の時間制限食」を5週間行ったところ、インスリン感受性やβ細胞の反応性、血圧などに改善がみられました。
この研究では体重が減らないよう食事量が調整されていたため、単に「痩せたから改善した」とは説明できません。
ただし、この研究も対象者は限定されており、
「夕食は15時までが正解」
という意味ではありません。
さらに、肥満者139人を対象とした12か月の研究では、両群ともカロリー制限を行ったうえで、8〜16時の時間制限食を追加しても、通常のカロリー制限と比べて体重減少などに明確な追加効果は確認されませんでした。
つまり、
「16時間空腹にすれば健康になる」
と単純に考えるのは少し早そうです。
時間制限食について考えるなら、
何時間食べなかったかだけでなく、「いつ食べたのか」も見る必要がある
ということです。
夜遅い食事では何が起こる?
遅い時間の食事についても興味深い研究があります。
過体重・肥満の成人を対象にしたランダム化クロスオーバー試験では、摂取する栄養やカロリーだけでなく、身体活動、睡眠、光環境などもできるだけ揃えたうえで、早い食事と遅い食事を比較しました。
その結果、遅い食事では空腹感が増加し、覚醒中のエネルギー消費が低下し、脂肪組織の代謝に関係する遺伝子発現にも変化がみられました。
もちろん、この研究だけで、
「夜に食べると太る」
と断定することはできません。
体重の変化には、総摂取カロリー、食事内容、活動量、睡眠、生活環境など、多くの要素が関係します。
ただ、
食べる時間そのものが代謝に影響する可能性がある
という点は、時間栄養を考えるうえで重要です。
では、何時に食べればいい?
ここまで読むと、
「結局、何時までに夕食を食べればいいの?」
と思うかもしれません。
しかし、現時点では、
「全員が○時までに食べればいい」
とは言えません。
起床時間も就寝時間も人によって違います。
仕事の時間も違えば、夜にトレーニングをする人もいます。
そのため、「18時以降は食べない」といった絶対的な時刻を決めるよりも、
極端に遅い時間へ食事を集中させないこと
そして、
毎日の食事時間を大きく乱しすぎないこと
から考える方が現実的だと思います。
「何時」という時計の数字だけを見るのではなく、自分の睡眠・活動・光環境を含めた24時間の中で、食事をどこに配置しているのかを見ることが大切です。
健康は「24時間の使い方」で考える
今回、時間栄養について調べていて、以前の記事とのつながりが非常に面白いと感じました。
睡眠について考えるときは、
「何時間寝たか」だけではなく、「いつ寝て、いつ起きたか」。
光について考えるときも、
「どれだけ光を浴びたか」だけではなく、「いつ光を浴びたか」。
そして食事も、
「何を食べたか」だけではなく、「いつ食べたか」。
さらに考えていけば、運動についても、
「どのくらい運動したか」だけでなく、「いつ運動したか」
という視点があります。
こう考えると、健康を「食事」「運動」「睡眠」と別々に考えるだけでは足りないのかもしれません。
大切なのは、
起きている時間のいつに、何をしているのか。
そして、それらが自分の24時間のリズムの中で、どのように配置されているのか。
身体は、
「何をするか」だけでなく、「いつするか」にも反応しています。
健康を考えるとき、「24時間をどう使っているか」という視点を一つ加えてみると、これまでとは少し違った身体の見方ができるのではないでしょうか。
参考文献
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- Liu D, et al. Calorie Restriction with or without Time-Restricted Eating in Weight Loss. New England Journal of Medicine. 2022;386:1495-1504.


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