「果糖は身体に悪い」
そんな話を聞いたことがある方も多いと思います。
果糖は果物にも含まれていますし、砂糖や砂糖を使った飲料にも含まれています。
では、同じ果糖を含んでいるなら、
リンゴをそのまま食べるのと、リンゴジュースとして飲むのは、身体にとって同じなのでしょうか?
調べてみると、どうもそれほど単純ではなさそうです。
今回は「果糖は良いのか、悪いのか」という二択ではなく、
同じ栄養素でも、どんな食品として、どのように身体へ入ってくるのか
という視点から考えてみたいと思います。
「果糖=悪い」では説明できない
果糖(フルクトース)は、その名前の通り果物にも含まれる糖の一種です。
一方で、砂糖(ショ糖)はブドウ糖と果糖からできているため、お菓子や砂糖入り飲料などからも果糖を摂取しています。
ここだけを見ると、
「果糖を減らせばいい」
という話になりそうです。
ところが、人を対象とした研究を見ていくと、それだけでは説明できません。
果糖を含む食品について調べた研究では、砂糖入り飲料を多く摂ることと心血管疾患や代謝性疾患との好ましくない関連が報告されている一方、丸ごとの果物では同じような関係がみられない研究があります。
つまり、
「果糖が含まれているか」だけでは、その食品が身体に与える影響を説明しきれない
ということです。
では、何が違うのでしょうか。
丸ごとの果物とジュースでは「身体への入り方」が違う
ここで面白い研究があります。
健康な成人に、
- 丸ごとのリンゴ
- リンゴのピューレ
- リンゴジュース
を摂ってもらい、MRIを使って胃の中の変化などを調べた研究です。
同じリンゴ由来でも、食品の形が変わると胃から送り出される速度が変わりました。
胃の内容物が半分程度になるまでの時間は、丸ごとのリンゴでは約65分だったのに対し、ピューレでは約41分、ジュースでは約38分でした。
さらに、丸ごとのリンゴの方が満腹感も大きくなりました。
ここで重要なのは、食品は栄養成分の集合体ではないということです。
食品には「構造」がある
リンゴを丸ごと食べる場合、糖だけを摂っているわけではありません。
水分、食物繊維、植物の細胞構造などを含んだ状態で口に入り、それを噛んで細かくし、胃で処理して、小腸へ送っています。
こうした食品全体の構造は、food matrix(フードマトリックス)と呼ばれます。
ジュースにすると、この構造は大きく変化します。
さらに、丸ごとのリンゴなら噛んで食べる必要がありますが、液体なら短時間で飲むことができます。
つまり同じような糖質量だったとしても、
咀嚼、食品の構造、摂取速度、胃排出、満腹感
など、身体に入ってくるまでの条件が違うわけです。
以前の記事で、食物繊維について「何g摂るかだけでなく、何から摂るかを見る」という話を書きました。
今回調べてみると、糖についても似たことが言えそうです。
糖を何g摂ったかだけではなく、何から、どんな形で摂ったのか。
ここまで見る必要があるのかもしれません。
果糖は吸収されたあと、どこへ行く?
もう少し身体の中まで見てみましょう。
食べた果糖は消化管から吸収され、その後の代謝に肝臓が大きく関わります。
ただ、近年面白いことが分かってきました。
小腸も、単なる果糖の通り道ではないということです。
2018年にCell Metabolismに発表された研究では、小腸そのものが果糖を代謝し、グルコースや乳酸などへ変換することが示されました。
さらに動物実験では、果糖の摂取量が増えると小腸で処理しきれない割合が増え、肝臓や大腸へ届く果糖が増えることも示されています。
これは非常に興味深い研究です。
ただし、ここは注意が必要です。
この「どのくらいの果糖なら小腸で処理できるのか」という定量的な話は、主に動物研究から得られたものです。
そのため、
「人間でも果糖を一気に摂ると小腸からあふれて肝臓へ行く」
とまで断定することはできません。
現時点では、身体が果糖を処理する仕組みを理解するための興味深い研究として捉えるのがよいと思います。
大切なのは「量」だけではなく「速度」なのかもしれない
ここからは、研究結果そのものというより、今回調べていて私自身が興味を持ったところです。
例えば、リンゴを丸ごと食べるとします。
噛んで、飲み込んで、胃で処理され、小腸へ送られます。
当然、そこには時間があります。
一方、ジュースなら短時間で飲むことができます。
同じような量の糖を摂ったとしても、
身体に入ってくるまでの時間は同じではありません。
もちろん現時点の研究から、
「ゆっくり入れば健康で、速く入れば不健康」
と単純に結論づけることはできません。
それでも、栄養を考えるときに、
何を何g摂ったか
だけを見るのではなく、
それがどんな形で、どのくらいの時間をかけて身体に入ってきたのか
という視点を持つのは面白いと思います。
調べていて、また「時間」が出てきた
今回、このテーマを調べていて個人的に一番面白いと思ったのは、また「時間」が出てきたことです。
以前、食事と体内時計について調べたときには、
「何を食べるか」だけではなく「いつ食べるか」
によって、身体の反応が変わる可能性があることを書きました。
今回は少し違います。
いつ食べるかという時間ではなく、どのくらいの時間をかけて身体へ入ってくるのか。
もちろん、「食べる時間帯」と「消化・吸収される速度」は学術的には別の話です。
ここを同じ仕組みとして考えることはできません。
それでも身体について調べていると、どうも私たちの身体は、
「何を入れたか」だけで反応しているわけではない
ということに気づきます。
睡眠もそうです。
光もそうです。
食事のタイミングもそうです。
そして今回の食品の形や消化の話にも、時間という要素が関わっています。
身体は、時間という流れの中で栄養を受け取っている。
この視点は、身体を考えるうえで個人的にとても面白いと感じています。
では、果物とジュースをどう考えればいい?
ここまで読んだからといって、
「ジュースは飲んではいけない」
という話ではありません。
100%果汁については、短期間の介入研究をまとめた解析で、血糖コントロールに明確な悪影響が確認されなかったという報告もあります。
砂糖入り清涼飲料水と100%果汁を、すべて同じものとして扱う必要もないでしょう。
一方で、普段果物を摂るのであれば、まずは丸ごとの果物を基本にするという考え方には合理性があります。
理由は単に、
「ジュースには果糖が入っているから」
ではありません。
丸ごとの果物には、
食品としての構造、食物繊維、咀嚼、満腹感、摂取にかかる時間
があります。
栄養素一つではなく、食品全体として見ることが大切なのだと思います。
まとめ|栄養は「何を」だけでは決まらない
健康について考えるとき、私たちはつい、
「何を食べればいいのか」
という答えを探します。
もちろん、それは大切です。
でも身体を見ていると、それだけでは説明できないことがあります。
何を食べるか。
何から摂るか。
いつ食べるか。
どんな形で摂るか。
そして、どのくらいの時間をかけて身体に入ってくるのか。
身体は、こうした条件を含めて反応しています。
だから、
「果糖は良いのか、悪いのか」
という二択だけで考えるのではなく、
その果糖を何から、どのように摂っているのか
まで考えてみる。
その方が、実際の身体を理解することに近づけるのではないかと思います。
参考文献
- Jang C, Hui S, Lu W, et al. The Small Intestine Converts Dietary Fructose into Glucose and Organic Acids. Cell Metabolism. 2018;27(2):351-361.e3. DOI: 10.1016/j.cmet.2017.12.016. PubMed
- Krishnasamy S, Lomer MCE, Marciani L, et al. Processing Apples to Puree or Juice Speeds Gastric Emptying and Reduces Postprandial Intestinal Volumes and Satiety in Healthy Adults. The Journal of Nutrition. 2020;150(11):2890–2899. DOI: 10.1093/jn/nxaa191.
- Sun T, Zhang Y, Ding L, et al. The Relationship Between Major Food Sources of Fructose and Cardiovascular Outcomes: A Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of Prospective Studies. Advances in Nutrition. 2023;14(2):256–269. DOI: 10.1016/j.advnut.2022.12.002.
- Murphy MM, Barrett EC, Bresnahan KA, Barraj LM. 100% Fruit juice and measures of glucose control and insulin sensitivity: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. Journal of Nutritional Science. 2017;6:e59. DOI: 10.1017/jns.2017.63.


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