全力じゃなくてもいい。健康のための「少しきつい運動」を考える

TRAINING

運動というと、「何分歩いた」「何km走った」といった運動時間や距離に目が向きがちです。

もちろん、運動量は大切です。

しかし最近の研究を見ていると、もう一つ考えたいのが「どのくらいの強度で身体を動かしたか」という視点です。

2026年に発表された研究では、わずか30秒の全力運動を繰り返しただけで、血液中の多くのタンパク質が大きく変化しました。サイエンスダイレクト

ただし、この記事で伝えたいのは、

「全力運動をしましょう」

ということではありません。

むしろ反対です。

健康づくりのために、本当にall-outまで追い込む必要があるのでしょうか。

今回は、短時間の全力運動に関する研究から、一般の人が高強度運動とどう付き合えばよいのかを考えてみます。


30秒×6本の全力運動で、714種類のタンパク質が変化した

非常に興味深い研究があります。

研究では、健康な若い男性を対象として、異なる強度の運動後に血液がどのように変化するかを調べました。

一つは、

30秒のall-outサイクリング×6本。

もう一つは、

90分間の中強度サイクリング。

30秒×6本ですから、全力で運動している時間だけを合計すれば3分です。

研究者は運動前、運動直後、3時間後に採血し、2,884種類の血中タンパク質を分析しました。

その結果、運動直後に有意な変化が認められたタンパク質は、

全力運動:714種類
中強度運動:7種類

でした。PubMed Central (PMC)

かなりインパクトのある数字です。

しかし、

「3分の全力運動は90分の有酸素運動より優れている」

という意味ではありません。

ここは非常に重要です。

今回測定しているのは、主に一回の運動後に起こった急性の分子反応です。

また、中強度運動でも時間が経ってから変化する物質があります。

「変化したタンパク質の数」が、そのまま健康効果の大きさを表しているわけではありません。PubMed Central (PMC)


なぜ短時間の全力運動で、大きな反応が起こるのか

30秒という時間だけを見ると、とても短く感じます。

しかし身体からすると、

「30秒しか続けられないほど強い運動」

とも考えられます。

全力に近い運動を始めると、筋肉は短時間で大量のエネルギーを必要とします。

その急激な要求に対応するために、ATP-PCr系、解糖系、酸化系など複数のエネルギー供給システムが動員されます。

筋収縮だけでなく、代謝、循環、神経・内分泌系などにも大きな変化が起こります。

そして今回の研究で面白いのは、筋肉だけを見ていないことです。

研究では、運動強度によって筋肉や脂肪組織などから放出される物質が変化し、血液を介した臓器間のコミュニケーションにも違いが生じる可能性が示されています。サイエンスダイレクト

運動すると筋肉だけが鍛えられる。

身体の中では、そんな単純なことが起きているわけではないのです。


SITとHIITは、同じではない

ここで用語を整理しておきます。

今回の研究で行われたような運動は、SIT(Sprint Interval Training:スプリント・インターバル・トレーニング)と呼ばれる方法に近いものです。

SITでは、短時間のall-out、つまり最大努力に近い運動と休息を繰り返します。

一方でよく聞くHIIT(High-Intensity Interval Training)は、高強度運動と休息を繰り返しますが、必ずしもall-outではありません。

どちらも「きつい運動と休息を繰り返す」という点では似ています。

しかし、

高強度で行うことと、全力で行うことは同じではありません。

ここは実際に運動すると、かなり大きな違いがあります。


私自身も、all-outではやっていない

私自身も、高強度のインターバルトレーニングを行っています。

現在行っているのは、

40秒運動+40秒休息×8本。

運動している時間だけなら、合計5分20秒です。

ただし、最初から完全なall-outではありません。

序盤は全力に近いものの少し抑えて入り、疲労が蓄積する4〜5本目以降になると、かなり全力に近い状態になります。

その理由の一つは単純で、

all-outはかなりきついからです。

身体的にきついのはもちろんですが、精神的にも「また次の一本を全力でやる」というのはかなり負担があります。

運動を習慣にしている私自身でもそう感じます。

だからこそ、運動初心者や、競技ではなく健康づくりを目的としている人に、

「30秒全力を6本やりましょう」

とそのまま勧めることには慎重であるべきだと考えています。


研究で効果があった方法を、そのまま再現する必要はない

ここは運動研究を見るときに、とても大切なところだと思います。

研究では、身体の反応を明確にするために強い刺激を与えることがあります。

しかし、

研究で行われた運動
= 一般の人に最適な運動

とは限りません。

実際、2026年に発表されたSITに関するシステマティックレビュー・メタ解析では、78研究・93試験、計1,188人のデータが分析されました。

SITによってVO₂maxは平均約8.3%改善していましたが、興味深いことに、スプリントの本数を増やしてもVO₂maxの改善が大きくなるとは認められませんでした。 Wiley Online Library

研究者らも、古典的な「30秒all-outを4〜6本」という方法について、耐容性が低く、継続しにくい可能性を指摘しています。

そして、一般的な健康づくりでは、より少ない本数のSITを研究する価値があるとしています。Wiley Online Library

つまり、

きつければきついほど良い。
本数が多ければ多いほど良い。

という単純な話ではありません。


一般の人なら「少しきつい」から始めてもいい

健康づくりを目的とするなら、私はまず、

いつもの運動の中に、少し強い刺激を入れてみる。

という考え方でよいと思っています。

例えばウォーキングをしている人なら、

普通に歩く時間の中に、少し速く歩く時間を入れてみる。

エアロバイクなら、

普通に漕ぐ時間の中に、少し息が上がる程度まで強く漕ぐ時間を入れてみる。

慣れてきたら、その強度や時間を少しずつ調整する。

最初から「限界まで追い込む」必要はありません。

むしろ、運動初心者にとって大切なのは、一回だけ強烈な運動をすることより、続けられる形で身体に刺激を与えていくことだと考えています。

もちろん、持病がある人や運動中の症状がある人などは、高強度運動を始める前に医療者への確認が必要な場合があります。


Zone2とHIIT、どちらがいいのか

ここでよく出てくるのが、

「Zone2とHIITなら、どちらがいいのか?」

という話です。

私は、どちらか一方を選ぶ必要はないと考えています。

低〜中強度の運動には、比較的長く続けやすく、運動量を確保しやすいという特徴があります。

一方、高強度運動は短時間でも心肺系などに強い刺激を与えることができます。

つまり、

刺激の種類が違う。

だから、

どちらが優れているかではなく、異なる強度の運動をどう組み合わせるか。

と考えた方が、実際の健康づくりには使いやすいと思います。

私自身も、高強度運動だけではなく、Zone2のような低〜中強度運動を組み合わせることを考えています。

以前の記事では、心肺体力の指標であるVO₂maxと健康長寿との関係について詳しく書いています。


運動は「何分やったか」だけでは決まらない

今回紹介した研究では、30秒の全力運動を6本行った直後に、血液中の714種類のタンパク質が変化しました。

非常に興味深い結果です。

しかし、この記事から、

「3分だけ全力運動をすれば健康になれる」

と考えるのは違います。

私がこの研究から感じたのは、

身体は運動時間だけではなく、運動強度にも大きく反応している。

ということです。

健康のための運動というと、

「30分歩かなければ」

「もっと長く走らなければ」

と考えてしまうことがあります。

でも、運動の考え方はそれだけではありません。

いつものウォーキング。

いつもの自転車。

いつものトレーニング。

その中に、ほんの少しだけ強い刺激を入れてみる。

それだけでも、運動の質は変わってきます。

全力じゃなくてもいい。

まずは自分にとっての、

「少しきつい」

から始めてみる。

健康のための高強度運動は、そのくらいの考え方からスタートしてもよいのではないでしょうか。


参考文献

  1. Exercise intensity modulates interorgan communication and is associated with cardiometabolic health outcomes in humans. Cell Reports Medicine. 2026. サイエンスダイレクト
  2. Hutchinson M, Kinghorn DJ, Hall ECR, et al. Number of Sprint Repetitions in a Sprint Interval Training Session Does Not Moderate Improvements in V̇O₂max With Training: A Systematic Review and Meta-Analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2026;36(7):e70347. doi:10.1111/sms.70347. Wiley Online Library

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