「お腹はいっぱいのはずなのに、つい食べてしまう」
「お菓子を食べ始めると、なかなかやめられない」
そんな経験はないでしょうか。
食べ過ぎてしまうと、つい自分の意志の弱さを責めてしまうかもしれません。
しかし、近年の研究からは、食欲や食べる量は意志の力だけでなく、食品の性質や生活環境によっても左右されることが分かってきています。
特に注目されているのが「超加工食品」です。
2019年に米国国立衛生研究所(NIH)が実施した研究では、超加工食品を中心とした食事を摂った期間に、そうでない食事と比べて1日平均約500kcalも多く食べていたことが報告されました。
では、なぜ同じように食事をしていても、これほど大きな差が生まれるのでしょうか。
今回は、超加工食品と食欲の関係を中心に、食事の時間や睡眠とのつながりも含めて考えていきます。
超加工食品とは何か?
私たちが普段食べている食品の多くは、何らかの加工が施されています。
例えば、豆腐、納豆、ヨーグルト、缶詰、冷凍野菜なども加工された食品です。
しかし、加工されているからといって、必ずしも健康に悪いわけではありません。
食品の加工度を分類する方法として、研究でよく用いられるのが「NOVA分類」です。
NOVA分類では、食品を大きく4つに分けています。
- 未加工・最小限の加工食品:野菜、果物、卵、米、肉、魚など
- 加工調理用の原材料:油、砂糖、塩など
- 加工食品:チーズ、魚の缶詰、一部のパンなど
- 超加工食品:清涼飲料、菓子類、一部の即席食品、工業的に製造された菓子パンなど
超加工食品とは、食品から抽出・精製した成分や添加物などを組み合わせ、工業的に製造された食品を指します。
ただし、同じパンやヨーグルトでも、原材料や製法によって分類が異なる場合があります。
大切なのは、「加工食品=悪い食品」と単純に考えないことです。
食品の加工には、安全性を高めたり、保存性を改善したり、忙しい日常の食事を支えたりする役割もあります。
問題は、どのような食品を、どのくらい、どのような食生活の中で食べているかという点です。
研究で分かった、1日約500kcalの差
2019年、米国の研究者Kevin Hallらは、超加工食品が食べる量に与える影響を調べました。
研究には20人の成人が参加し、研究施設内で次の2種類の食事を、それぞれ2週間ずつ摂取しました。
- 超加工食品を中心とした食事
- 未加工・最小限の加工食品を中心とした食事
提供する食事は、エネルギー量や主要な栄養素、糖分、塩分、食物繊維などができるだけ近くなるように設計されました。
そして参加者には、用意された食事を好きなだけ食べてもらいました。
その結果、興味深い違いが生まれました。
超加工食品を中心とした食事では、1日平均508kcal多く摂取していたのです。
さらに、2週間の体重変化は次のようになりました。
- 超加工食品中心の期間:約0.9kg増加
- 未加工食品中心の期間:約0.9kg減少
つまり、同じ人でも、食事の内容によって自然に食べる量が変わり、短期間の体重にも差が生まれたということです。
この研究の重要な点は、参加者に食事制限を指示していないことです。
食べる量を自分で決められる環境で、これだけの差が確認されました。
ただし、対象者は20人で、各食事期間は2週間です。
この結果だけで、すべての超加工食品が食べ過ぎを引き起こす、あるいは長期的な肥満の原因になると断定することはできません。
それでも、食品の性質が摂取エネルギーに影響する可能性を示した重要な研究だと考えられます。
なぜ超加工食品は食べ過ぎにつながりやすいのか?
では、なぜ食べる量に差が生まれたのでしょうか。
考えられている要因を整理してみます。
1. 短時間で多くのエネルギーを摂取しやすい
超加工食品の中には、やわらかく、噛む回数が少なくても食べられるものが多くあります。
例えば、菓子パンやスナック菓子などは、比較的短時間で多くのエネルギーを摂取できる食品です。
2019年の研究でも、超加工食品中心の食事を摂った期間は、食べる速度が速くなっていました。
ここで重要なのは、単に食事時間が短いことではありません。
1分間にどれだけのエネルギーを摂取できるかという視点です。
食べる速度と食品のエネルギー密度が組み合わさることで、短時間に多くのカロリーを摂取しやすくなる可能性があります。
ただし、食べる速さが研究結果の差をどの程度説明するのかは、まだ十分に解明されていません。
2. 食品のエネルギー密度
エネルギー密度とは、食品の重さあたりに含まれるエネルギー量のことです。
例えば、水分を多く含む野菜や汁物は、比較的大きな量を食べても摂取エネルギーを抑えやすい食品です。
一方、油脂や糖質を多く含む食品の中には、少量でも高エネルギーになるものがあります。
ただし、エネルギー密度が高い食品がすべて悪いわけではありません。
ナッツ類など、栄養価の高い食品もあります。
食品を評価するときは、エネルギー密度だけでなく、栄養価や食べる量を合わせて考える必要があります。
3. タンパク質や食物繊維との関係
タンパク質や食物繊維は、満腹感や食後の満足感に関わる重要な栄養素です。
一部の超加工食品では、摂取エネルギーに対してタンパク質や食物繊維が少ない場合があります。
ただし、すべての超加工食品に当てはまるわけではありません。
また、2019年の研究では、提供された食事のタンパク質や食物繊維の量もできるだけそろえられていました。
そのため、研究で確認された摂取量の差を、単純に「タンパク質や食物繊維が少なかったから」と説明することはできません。
食品の加工度、食感、食べる速さ、栄養組成など、複数の要因が関わっていると考えるのが適切でしょう。
食物繊維については、以前の記事でも詳しく紹介しています。
関連記事:食物繊維は何を食べればいい?食品の選び方と健康への働き
超加工食品を食べると必ず太るのか?
ここで、もう一つ紹介したい研究があります。
2025年に『Nature Medicine』に掲載された研究では、英国の健康的な食事指針に沿って設計した2種類の食事が比較されました。
一方は加工度の低い食品を中心とした食事、もう一方は超加工食品を中心とした食事です。
その結果、どちらの食事でも体重は減少しました。
ただし、加工度の低い食品を中心とした食事の方が、体重減少の幅は大きい結果でした。
この研究は、超加工食品を含む食事であっても、食事全体の内容によっては体重管理が可能であることを示しています。
一方で、両群の食品の栄養組成などにも違いがあり、体重変化の差を加工度だけで説明できるのかについては、研究者の間で議論が続いています。
つまり、現在の科学から言えるのは、超加工食品を一律に禁止することではありません。
加工度だけに注目するのではなく、食品の栄養組成や食べやすさ、食生活全体を評価することが大切だということです。
食欲は「何を食べるか」だけで決まらない
ここまで食品の性質について見てきましたが、食欲を左右する要因はそれだけではありません。
実は、同じ食品を食べる場合でも、食事をする時間帯や睡眠の状態によって、空腹感や食べる量が変わる可能性があります。
食事の時間と体内時計
2022年に『Cell Metabolism』に掲載された研究では、食事の内容や睡眠、活動量などの条件を調整したうえで、早い時間帯と遅い時間帯の食事を比較しました。
その結果、遅い時間帯に食事をした条件では、空腹感が増加し、食欲に関わるホルモンのバランスにも変化が確認されました。
この研究は、食欲が食品の内容だけでなく、食事のタイミングにも影響されることを示しています。
ただし、少人数の短期研究であり、夜遅く食べることがすべての人に同じ影響を与えるとまでは言えません。
以前の記事では、食事の時間と体内時計の関係について詳しく紹介しています。
関連記事:食事の時間と体内時計の関係
食べる内容を整えることに加えて、食事時間を大きく乱さないことも、生活習慣を考えるうえで大切な視点です。
睡眠不足と食欲
もう一つ、見逃せないのが睡眠です。
2022年に『JAMA Internal Medicine』に掲載された研究では、普段の睡眠時間が6.5時間未満の過体重の成人80人を対象に、睡眠時間を延ばす介入が行われました。
その結果、睡眠時間を延ばしたグループでは、対照群と比較して1日の摂取エネルギーが平均約270kcal少なくなりました。
特別な食事制限を指示しなくても、睡眠への介入によって摂取エネルギーに差が生まれたのです。
これは、食事を改善しようとするとき、食べ物だけに目を向けるのでは不十分かもしれないことを示唆しています。
ただし、この研究は短期間の介入であり、睡眠を延ばせば誰でも同じように摂取量が減るわけではありません。
また、睡眠時間と睡眠の規則性は別の要素です。
睡眠の規則性については、以前の記事で紹介しています。
関連記事:睡眠の規則性と健康の関係
食欲を我慢するより、食環境を整える
ここまでの研究を踏まえると、食べ過ぎを防ぐためにできることが見えてきます。
それは、食欲を意志の力だけで抑えようとするのではなく、自然と食べ過ぎにくくなる環境を整えることです。
私が日常生活で取り入れやすいと考えるのは、次のような方法です。
1. 食品を禁止するのではなく、置き換える
例えば、甘い飲み物を水や無糖のお茶に変える。
菓子パンだけで朝食を済ませることが多ければ、卵やヨーグルト、果物などを組み合わせる。
こうした小さな変更でも、食事の栄養組成や満足感を見直すきっかけになります。
すべてを手作りにする必要はありません。
忙しいときは、冷凍野菜、缶詰、納豆、無糖ヨーグルトなど、便利な食品も積極的に活用できます。
2. 食べる速さを意識する
食事を急いで済ませる習慣がある場合は、食べる速さを見直してみるのも一つの方法です。
噛み応えのある食品を組み合わせる、食事中に一度箸を置くなど、無理なく続けられる工夫から始めてみましょう。
ただし、ゆっくり食べるだけで必ず体重が減るというわけではありません。
3. 空腹になってから選ぶ環境を変える
強い空腹を感じているときは、手軽に食べられる食品を選びやすくなることがあります。
そこで、食事を準備する余裕があるときに、食品を選んでおくことも役立ちます。
例えば、冷蔵庫にすぐ食べられるタンパク質源や野菜を用意しておく。
食べ過ぎやすいお菓子を大袋ではなく小分けで購入する。
こうした工夫は、食欲を我慢することとは少し違います。
食べる瞬間の判断に頼らず、事前に環境を整えておくという考え方です。
4. 食事時間と睡眠も一緒に見直す
食品選びを工夫していても、睡眠時間が不足していたり、食事時間が大きく乱れていたりすれば、食欲の調節に影響する可能性があります。
食事だけを切り離して考えるのではなく、睡眠や生活リズムを含めて見直すことが大切です。
まとめ|食欲は意志だけで決まるものではない
食べ過ぎてしまうとき、私たちはつい「もっと我慢しなければ」と考えがちです。
しかし、研究からは、食欲や摂取エネルギーが食品の性質、食事のタイミング、睡眠など、さまざまな要因によって影響を受けることが分かってきています。
超加工食品についても、すべてを悪いものとして扱う必要はありません。
重要なのは、自分が普段どのような食品を選び、どのような環境で食事をしているかを知ることです。
健康的な食生活を続けるために必要なのは、強い意志だけではないのかもしれません。
我慢し続ける生活ではなく、無理なく良い選択ができる生活をつくること。
それが、長く続けられる食習慣につながると考えています。
参考文献
- Hall KD, et al. (2019). Ultra-Processed Diets Cause Excess Calorie Intake and Weight Gain: An Inpatient Randomized Controlled Trial of Ad Libitum Food Intake. Cell Metabolism. 論文はこちら
- Dicken SJ, et al. (2025). Ultraprocessed or minimally processed diets following healthy dietary guidelines on weight and cardiometabolic health: a randomized, crossover trial. Nature Medicine. 論文はこちら
- Vujović N, et al. (2022). Late isocaloric eating increases hunger, decreases energy expenditure, and modifies metabolic pathways in adults with overweight and obesity. Cell Metabolism. 論文はこちら
- Tasali E, et al. (2022). Effect of Sleep Extension on Objectively Assessed Energy Intake Among Adults With Overweight in Real-life Settings: A Randomized Clinical Trial. JAMA Internal Medicine. 論文はこちら
- Robinson E, Forde CG. (2026). Concerns around evidence that food processing should be included in dietary guidance. Nature Medicine. 論文はこちら


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